「良い聴こえ」って、なんだろう?とよく考えます。
良い聴こえが欲しくなるのは、生のオーケストラを聴くとき、友人との会話を楽しむとき、テレビの視聴をするとき、などなど。
こと、人工聴覚器(補聴器、人工内耳、人工中耳、BAHA、etc…)を介して聴く場合は、それらを必要とするご本人と一緒に、医師や言語聴覚士、認定補聴器技能者らが「補聴する音」を個々人の聴力に合わせて、作り上げていく必要があります(ここでは集音器は含みません。本人以外の誰かが聴力に合わせて調整をしてくれる製品では一般的に無いため。)
小さな音でも良く聴こえる方=健聴者(けんちょうしゃ)の感覚では、難聴のご家族の方には自分と同じように聞こえて欲しいと願うかもしれません。私もそうでした。同じテレビ番組を観ていても、音量が父と合わない。父が一人で観ている時のテレビは爆音。そこで難聴の父に補聴器をプレゼントしました。
結果的に父は小さな音でも感知できるようになりましたが、初回フィッティングでは「言葉は大きくなったけれど、雑音も大きい」という評価になりました。
「雑音」とは、補聴器の内部から発する自己ノイズではありません。生活環境に存在し、健聴者は日常的に感知しているけれど、気にも留めていない音たちのこと。それはエアコンの音であったり、蛇口の水道水だったり、新聞をめくる音だったり。車の走行音、地下鉄のホームの雑踏や、食事中に聞こえる自身の咀嚼音も意識しない生活騒音かもしれません。
これらは健聴者にとって存在して当たり前。普段は何ら気にならない騒音ですが、徐々に聴力が低下された方(加齢性難聴・老人性難聴)にとっては存在しない音。補聴器を装用した結果、急に聴こえ(知覚)し始めます。場合によっては「アタマがクラクラしそうな騒々しさ」を覚える方もお見えです。あたかも静かだった自宅が、急遽ロックコンサート会場になってしまったかのように。
難聴の父にとって、静かな世界こそが自分の環境であって、そこに多くの音を注がれることは煩わしい日々の幕開けになってしまったのかもしれません。これが、掛ければ大概よく見えるようになる「眼鏡」と大きく異なる、補聴器の難しさ(*)だと思います。
(*)
もちろん、調整の詰めの甘さや、補聴器形状の至らなさ、そもそもの耳栓の選択ミス(オープンフィッティングすべきで無い事例にそれを販売している)など、補聴器店舗側で解決すべき事例が多く放置されている場合もあると耳鼻咽喉科の先生方から伺います。それら未熟なフィッティング(調整力)をご本人の慣れや、補聴器の限界のせいにして、販売店が逃げてしまうことはあってはならない事だと思いますが、実例として散見される様に思います。この事例は別途次回以降にご紹介申し上げます。
この補聴器装用者の「主観」=「補聴器をしていないときの聴こえと異なる」「騒音が大きくて困る、音を下げて欲しい」という要請に応えて増幅度を下げて続けていくと、あっても無くてもあまり変わらない「無いよりましな補聴器」、もっとひどい場合には「無い方がいいかもしれない補聴器」になってしまうと、耳鼻咽喉科の先生から教わりました。結果、使わなくなってしまうことも多く有ると伺います。折角高額な補聴器を購入したのに、タンスの肥やしになっては勿体無いですよね。
この「主観的評価」だけで補聴器の調整を行うことは良いことではありません。では、どうしたら良いのでしょうか?その答えが「客観的評価」であると考えます。補聴器をする前とした後で、どれほど聴こえが向上しているかを把握し、その情報を元に比較、検討、調整を行うことが重要です。
この客観的な評価は、補聴器の販売店スタッフ自らが自省をしながら行うことがあるべき姿ですが、できれば利益相反の無い第三者的視点によって、すなわち耳鼻咽喉科の補聴器相談医や補聴器適合判定医ら医師の指示で検査を受け、評価を頂くことが望ましいと思います。
具体的には
- 装用者自身が補聴器を用いない、自前の聞く能力。聴力(耳)。
- 補聴器単体の増幅度などの性能。これを「補聴器特性」と言います。
- ヒト(耳)+補聴器の合計能力。補聴器装用状態の音場検査結果など。
これら三種をそれぞれ検査(測定)しつつ、適切な補聴器フィッティングが成されているのか、医師に監視してもらう(「補聴器適合検査」といいます)ことが望ましいと思います。
しかしそういった医療機関は限られ、また通院が困難な場合もあると思います。そんな場合には第三者的な視点が薄れますが、購入後においても、認定補聴器専門店にて「定期的に(*)」測定をしっかりと行ってもらい、スタッフから説明を受け、現状把握を装用者ご自身やご家族がしっかりとなさることが肝要と考えます。
(*)
成城補聴器では初回ご購入時はもちろん、いつでも、何度でも無料でチェックし、その都度 調整・見直しを行います。お渡し時に、客観的な結果が当社指標(後日、詳細をご案内致します)に達しない場合は効果がないと判断し、ご販売は致しません。
大切なのは「主観」と「客観」のバランスだと思います。三種類の検査(測定)の詳細は、また次回以降にご案内申し上げます。
(耳鼻咽喉科 先生方へ:本ブログに不備や誤り、ご意見等ございましたら是非ご指摘、ご指導賜りたく、よろしくお願い申し上げます。)